2006年 06月 03日
【6148】 和製だった 「医食同源」と「身土不二」 |
★ 「食」という漢字を見る度に丸顔の童顔をしたT先生を思い出します。
「いいか、みんな、しっかり覚えろヨ。食という漢字は”人に良い”と書く。人に良いモノだから”食物” 忘れるな」
日本がアメリカと戦争を始めた1941(昭和16)年の頃の話です。私は、当時、小学校5年生でした。
★ 今更、T先生を責め立てる気は毛頭、ありませんが、「食」の解説は子どもダマシのデタラメです。
漢和辞典を引けば
【器に食物を盛って、フタをしたさま。よって”食物”を、 ひいては”たべる”意をあらわす】
となっています。「食」の言葉の含意は漢字の基本をなすもので、これを部首にした字、例えば、飲、飼、饗といった漢字が80種も掲載されています。
★ 最近、言葉の厳密な意味を問いかけてみることが多くなりました。 この一事でもお分かりの通り、やはり、気がついた時に、きちんと真偽を整理して子・孫に伝える努力をなすべきだ。それこそ、時間に恵まれた年寄りの役目、という思いが私にはあります。
★ 田舎に住んでいますと、ちょっと車を走らせると、あちこちに「青空市場」があります。土地の農家が出荷とは関係のない庭先農園に自分の家庭用に育てた”余り物”を出しておられるのですが、それぞれ出品者の名前が記されており、値段も安く、安心感もあって、我が家では重宝しています。最近、目に付くのは「地産地消」 「身土不二」のスローガン。イベント時には、更に「医食同源」も仲間入りして、満艦飾に垂れ幕が並んでいます。土地で採れた新鮮なものを食べて健康に・・・とのメッセージでしょう。
★ 特に岡山県では、行政と農協が中心になって、全県下に「地産地消」運動を展開しています。非常に結構なこと。私も大賛成です。隠居の身では何のお役にもたてそうにありませんが、せめて隣近所に声かけして運動の盛り上げに協力する心構えだけは持っています。
ところが・・・・昨日は、ビックリ。
★ いつもお馴染みの「青空市場」で、非常に形の整ったコイモが並んでいるのが目に付きました。ちょっと場にそぐわない”アカヌケ”しています。手にとってみると、なんと、なんと! 中国産。 思わず真上を見上げたら、「身土不二」の4文字が、如何にもシラケ顔して、私の目に飛び込んできました。
★ 「交通安全と同じで”実体無いから”こそのスローガンだね」と皮肉を交えながら笑えば、「岡山市内レストランのお得意さんが、これこれの品ぞろいを、と注文があるンヨ。ジャケン置いとる」 陽気なパートさんは商売繁盛に大いにセイ出していました。それでいいです。何事も、極端に徹底した原理主義はいけません。
★ それにしても「身土不二」 懐かしい言葉です。最近、「医食同源」の4文字と共に急にスーパーの食品コーナーで見かけるようになりました。普通、「古くから中国では・・・・」の枕詞(まくらことば)と共に用いられ、古来、人々が生活の中で守ってきた伝統的な食習慣であるかのように言われているのですが、本当の所、どうなのか? 実のところ、枕詞だけが一人歩きしていて、「身土不二」や「医食同源」は、近年になってから、中国古典からヒントを得た日本人主唱者が翻案した和製標語と言うのが正しいようです。
★ 確かに中国では、古い医薬書『神農』に「薬食一如」との記録はあるそうですが、それに似た意味の「医食同源」が日本に登場したのは、最近になってからのこと。中国科学史が専門の茨城大学教授の真柳誠さんの研究『医食同源の思想-成立と展開』によりますと、「医食同源」は新居裕久さんと言う料理研究家の造語で、香港出身の蔡氏(のち日本に帰化)こと藤井建さんがその著書『医食同源 中国三千年の健康秘法』(1972)で用いたのが最初なのだそうです。
★ 実は、新居裕久さんは、当時、「新宿クッキングアカデミー」の校長をなさっており、NHK『今日の料理』(1972年9月号)で、中国の「薬食同源」を紹介した折、”薬”では化学薬品と誤解されるので、”薬”を”医”に変え”医食同源”という日本語になじみやすいように造語した、と言うのが真実だ、そうです。
★ 日本最高の辞書として名高い『広辞苑』が、この「医食同源」を収載したのは第四版(1991)から。それ以前に「医食同源」を日本語として認知した辞書は皆無、だそうです。本当に、エエッ!と叫びたくなる”新事実”ですね。真柳誠教授は、この歴史的意味を持つ『医食同源 中国三千年の健康秘法』は、東京スポーツ新聞社から出版されたのだが、編集を担当した川北記者が新居氏の造語を見て、こちらがいい、と、転用した裏話までも突き止め、それを公表しておられます。面白い秘話ですね。
★ ついでに「身土不二」の由来も見ておきましょう。こちらは、そのものズバリ、『身土不二の探究』という名著があります。著者は、農業作家の誉れ高い山下惣一さん。この言葉にこだわり、徹底的に追究されたのが、この名著。
★ 今からちょうど、700年前の1305年に中国の普度法師が編纂された仏教書『盧山蓮宗宝鑑』にある教えで、「体と土とは一つである」とし、人間が足で歩ける身近なところ(三里四方、四里四方)で育ったものを食べ、生活するのがよいとする考え方。元々は生物とその生息している土地、環境とは切っても切れない関係にあるという意味合いで使われる宗教的概念なのですね。
★ 盧山蓮宗は、親鸞の開いた浄土真宗のルーツであることから日本では浄土真宗の門徒の間では早くから、仏教の説話として知られていた、といいます。
★ それが、科学レベルの”食育”実用論としてで語られるようになったのは、我が国の食物衛生医学の始祖・石塚左玄さん(1850-1909)が、主著『化学的食養長寿法』(1896年刊)で述べた「身土不二の原理」を弟子・孫弟子が広めた、というのが定説になっています。
★ しかし今、全国で爆発的に起こっている「GI・ダイエット」や「スローフード」に絡ませて「身土不二」が注目されるようになったのは、1980年代に韓国で「身土不二」のスローガンで展開された農民生協運動の成功が日本に逆輸入された、と言う興味深い意見もあります。面白い見方と思いますので、ご紹介しておきましょう。【言葉の旅人:身土不二・普度「盧山蓮宗宝鑑」】
★ うんと昔からあったように言われる「医食同源」や「身土不二」・・・特に「医食同源」の場合、”中国では昔から・・”を受けるのであれば、「薬食一如」でないといけませんね。
この二つ、実は、ビックリするほど新しい”新語”なんですね。最近、ブームの食改善の話。どんな本を開いても、必ず「古来、中国では・・・」と、持ち出される枕詞ですが、無造作に使われている著作を手にすると、その本の信頼性を疑いたくなります。言葉はコワイです。
「いいか、みんな、しっかり覚えろヨ。食という漢字は”人に良い”と書く。人に良いモノだから”食物” 忘れるな」
日本がアメリカと戦争を始めた1941(昭和16)年の頃の話です。私は、当時、小学校5年生でした。
★ 今更、T先生を責め立てる気は毛頭、ありませんが、「食」の解説は子どもダマシのデタラメです。
漢和辞典を引けば
【器に食物を盛って、フタをしたさま。よって”食物”を、 ひいては”たべる”意をあらわす】
となっています。「食」の言葉の含意は漢字の基本をなすもので、これを部首にした字、例えば、飲、飼、饗といった漢字が80種も掲載されています。
★ 最近、言葉の厳密な意味を問いかけてみることが多くなりました。 この一事でもお分かりの通り、やはり、気がついた時に、きちんと真偽を整理して子・孫に伝える努力をなすべきだ。それこそ、時間に恵まれた年寄りの役目、という思いが私にはあります。
★ 田舎に住んでいますと、ちょっと車を走らせると、あちこちに「青空市場」があります。土地の農家が出荷とは関係のない庭先農園に自分の家庭用に育てた”余り物”を出しておられるのですが、それぞれ出品者の名前が記されており、値段も安く、安心感もあって、我が家では重宝しています。最近、目に付くのは「地産地消」 「身土不二」のスローガン。イベント時には、更に「医食同源」も仲間入りして、満艦飾に垂れ幕が並んでいます。土地で採れた新鮮なものを食べて健康に・・・とのメッセージでしょう。
★ 特に岡山県では、行政と農協が中心になって、全県下に「地産地消」運動を展開しています。非常に結構なこと。私も大賛成です。隠居の身では何のお役にもたてそうにありませんが、せめて隣近所に声かけして運動の盛り上げに協力する心構えだけは持っています。
ところが・・・・昨日は、ビックリ。
★ いつもお馴染みの「青空市場」で、非常に形の整ったコイモが並んでいるのが目に付きました。ちょっと場にそぐわない”アカヌケ”しています。手にとってみると、なんと、なんと! 中国産。 思わず真上を見上げたら、「身土不二」の4文字が、如何にもシラケ顔して、私の目に飛び込んできました。
★ 「交通安全と同じで”実体無いから”こそのスローガンだね」と皮肉を交えながら笑えば、「岡山市内レストランのお得意さんが、これこれの品ぞろいを、と注文があるンヨ。ジャケン置いとる」 陽気なパートさんは商売繁盛に大いにセイ出していました。それでいいです。何事も、極端に徹底した原理主義はいけません。
★ それにしても「身土不二」 懐かしい言葉です。最近、「医食同源」の4文字と共に急にスーパーの食品コーナーで見かけるようになりました。普通、「古くから中国では・・・・」の枕詞(まくらことば)と共に用いられ、古来、人々が生活の中で守ってきた伝統的な食習慣であるかのように言われているのですが、本当の所、どうなのか? 実のところ、枕詞だけが一人歩きしていて、「身土不二」や「医食同源」は、近年になってから、中国古典からヒントを得た日本人主唱者が翻案した和製標語と言うのが正しいようです。
★ 確かに中国では、古い医薬書『神農』に「薬食一如」との記録はあるそうですが、それに似た意味の「医食同源」が日本に登場したのは、最近になってからのこと。中国科学史が専門の茨城大学教授の真柳誠さんの研究『医食同源の思想-成立と展開』によりますと、「医食同源」は新居裕久さんと言う料理研究家の造語で、香港出身の蔡氏(のち日本に帰化)こと藤井建さんがその著書『医食同源 中国三千年の健康秘法』(1972)で用いたのが最初なのだそうです。
★ 実は、新居裕久さんは、当時、「新宿クッキングアカデミー」の校長をなさっており、NHK『今日の料理』(1972年9月号)で、中国の「薬食同源」を紹介した折、”薬”では化学薬品と誤解されるので、”薬”を”医”に変え”医食同源”という日本語になじみやすいように造語した、と言うのが真実だ、そうです。
★ 日本最高の辞書として名高い『広辞苑』が、この「医食同源」を収載したのは第四版(1991)から。それ以前に「医食同源」を日本語として認知した辞書は皆無、だそうです。本当に、エエッ!と叫びたくなる”新事実”ですね。真柳誠教授は、この歴史的意味を持つ『医食同源 中国三千年の健康秘法』は、東京スポーツ新聞社から出版されたのだが、編集を担当した川北記者が新居氏の造語を見て、こちらがいい、と、転用した裏話までも突き止め、それを公表しておられます。面白い秘話ですね。
★ ついでに「身土不二」の由来も見ておきましょう。こちらは、そのものズバリ、『身土不二の探究』という名著があります。著者は、農業作家の誉れ高い山下惣一さん。この言葉にこだわり、徹底的に追究されたのが、この名著。
★ 今からちょうど、700年前の1305年に中国の普度法師が編纂された仏教書『盧山蓮宗宝鑑』にある教えで、「体と土とは一つである」とし、人間が足で歩ける身近なところ(三里四方、四里四方)で育ったものを食べ、生活するのがよいとする考え方。元々は生物とその生息している土地、環境とは切っても切れない関係にあるという意味合いで使われる宗教的概念なのですね。
★ 盧山蓮宗は、親鸞の開いた浄土真宗のルーツであることから日本では浄土真宗の門徒の間では早くから、仏教の説話として知られていた、といいます。
★ それが、科学レベルの”食育”実用論としてで語られるようになったのは、我が国の食物衛生医学の始祖・石塚左玄さん(1850-1909)が、主著『化学的食養長寿法』(1896年刊)で述べた「身土不二の原理」を弟子・孫弟子が広めた、というのが定説になっています。
★ しかし今、全国で爆発的に起こっている「GI・ダイエット」や「スローフード」に絡ませて「身土不二」が注目されるようになったのは、1980年代に韓国で「身土不二」のスローガンで展開された農民生協運動の成功が日本に逆輸入された、と言う興味深い意見もあります。面白い見方と思いますので、ご紹介しておきましょう。【言葉の旅人:身土不二・普度「盧山蓮宗宝鑑」】
★ うんと昔からあったように言われる「医食同源」や「身土不二」・・・特に「医食同源」の場合、”中国では昔から・・”を受けるのであれば、「薬食一如」でないといけませんね。
この二つ、実は、ビックリするほど新しい”新語”なんですね。最近、ブームの食改善の話。どんな本を開いても、必ず「古来、中国では・・・」と、持ち出される枕詞ですが、無造作に使われている著作を手にすると、その本の信頼性を疑いたくなります。言葉はコワイです。
by zenmz
| 2006-06-03 00:00
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