2008年 04月 12日
【8020】 ペルシャ湾か、アラビア湾か? |
★ 新しい言葉の勉強を始めると、その国の現在に特別の関心を抱くようになります。そしてこれまで見過ごしていたいろんな事柄が私たち日本人にも大いに関連していることを知り、そのことで世界の今の現実を改めて認識し直すことがあります。
★ しみじみと、今、それを思うのは、中東地域・イランとアラビア半島に囲まれた海は《アラビア湾かペルシャ湾か》と熾烈な言論戦が闘わされている問題です。もともとこの論争は歴史が長く、これが持ち上がるたびに、イランとアラブ両方の民族意識が高揚し、政治状況を悪化させてきました。
★ ちょうど1年前の4月末にフランスのルーブル美術館がイランの歴史的文化財の説明書きの一部に「ペルシャ湾」ではなく「アラビア湾」の名称が記載されており、イラン文化遺産庁長官がルーブル美術館長に訂正要請の書簡を送り、フランス政府と協議の上、訂正されたこともありました。
★ 今回の火付け役は、どうやらネット大手のGoogleのようです。衛星写真ソフト「Google Earth」で、この海を「アラビア湾」と名付けたことに端を発します。最初はネット上で、イラン人が「けしからん」と声をあげ、それがネット上で大論議を呼び世間の注目を集めるようになったようです。
★ 今月に入って、アラブ諸国のマスコミが「当然、アラビア湾」と書き立て、とうとうイラン外務省のアセフィ報道官が内外マスコミに「アラブ側のいうような”アラビア湾”ではなく、”ペルシャ湾”と“正式名”で呼ぶよう訴えこれでさらに騒ぎが一層、拡大しています。
★ ネット上の【反グーグル・キャンペーン】もすさまじいものがあります。
「国際的なメディアに」(To International Media)向けられたネット文書が私の所にも送られてきました。”Immediate and unconditonal deletion of "Arabian Gulf" from Google Earth"(グーグル・アースは、直ちに、無条件で”アラビア湾”を削除せよ)
★ そこには、「そもそもペルシャとはなにか?」に始まり、【ペルシャ湾】名称の正当性を展開しています。そして賛同電子署名がワンサとあります。その数、今、現在、157958 署名。多くの署名に「ペルシャ湾だ、くたばれグーグル」などとかなり過激なコメントも書き添えられています。その勢いはすさまじいです。
★ 遠い日本から眺めれば、中東の内陸に深く食い込んだ湾岸の名称が「ペルシャ湾」であろうと「アラビア湾」であろうとどうでもいい話にみえますが、この湾岸に関係のある諸国にとっては、その名称が実に重要な問題なのですね。
★ それが何時だったか? 手元資料に日時がないのですが、この湾岸の名称を巡って、イランのアハマディネジャド大統領とカタールのシェイク・ハマド・ビン・ハリファ・アル・サニ首長が大激論を展開したことがあります。
★ シェイク・ハマド首長がイランを訪問したとき、
「イランのサッカーチームがワールドカップで全ての”アラブ・ペルシャ湾岸”諸国の誇りとなるだろう」
と賛辞を述べました。
★ ところが、イランのアハマディネジャド大統領はこの発言を見過ごさず、
「どこの国でも学校では『ペルシャ湾』と習ったはずだ」
と突っ込み、シェイク・ハマド首長が
「いずれにしても、湾はあらゆる湾岸諸国に属する」
と、サラリとかわした”美談”が世界の注目を集めました。
もろにぶつかっていたら意地の突っ張りあい。どうなっていたことやら・・・
★ シェイク・ハマド首長発言が、「GCC」を意識しているのは明らかです。「GCC」と言うのこの地域の政治・経済・社会・・・など関係国の利害を調整するために設けられた「湾岸協力会議」(Gulf Cooperation Council)のことで、UAE、バハレーン、サウジアラビア、オマーン、カタール、クウェートの6カ国によって25年前に設立されました.。
西欧諸国のマスコミがシエイク・ハマド発言を《賢明なる発言》と絶賛したのもこの背景を意識してのことでした。
★ こう書きながら、私のアタマの中で我が国と韓国の「日本海」呼称問題が去来します。ユーラシア大陸と日本列島の間にある「日本海」 これが今、韓国との間で重要な外交問題になっています。
韓国は
《「日本海」という名称は誤っており、本来の「東海」(East Sea Donghae、トンヘ) に戻すべき》
と強く主張し、お互いに譲らず、にらみ合っています。
★ この微妙な問題は、1992年の国連地名標準化会議で韓国側から持ち出され、もう10数年間、激烈な議論が闘わされています。たかが名称、されど名称・・・こうした名称問題は、下手をすると、偏狭な民族意識を掻き立て、近隣民族間の要らざる憎悪感を増幅させるおそれがあります。
★ 昭和ヒトケタ族、今、喜寿を迎える年代の者は、それに踊らされた苦い経験を持っています。現人神を天皇に戴く「陽出ずる神国日本」 西欧諸国の植民地で圧政に苦しむアジア同胞を解放し、「八紘一宇」を建設。つまり、アジアは一つ、天皇陛下のご威光の元に一家の中の兄弟姉妹になりましょう???? そのために我らは、正義の聖戦を始める・・・
「抑圧されたアジア解放のために」 大陸に侵攻し、南太平洋に繰り出しました アホなことするから私はヒロシマ原爆に遭いました。多くの友を失いました。
★ 幻のような敵を作って解放軍を繰り出す。何か、今のアメリカが似たようなことをやっていますね。ありもしない「生物化学兵器保有」を理由にイラクに侵攻、国家を破壊しました。戦争大好きのこの大統領は、自分の気に染まない国々を「悪の枢軸・ならず者国家」と決めつけ抑圧された民衆解放解放を唱えます。歴史は繰り返す見本を見るような感じがしますね。
★ とにかく・・・・民族意識を掻き立てる動きは、国内がまとまらず国民の不安が高まった時、国民の目を外に向け、一致団結、国難と闘おう、と、言った為政者の意図が働くことが多いものです。そうした目を持って冷静に対処した方がいいでしょう。痛い思いをした昭和ヒトケタの感想です。
★ ところで、最後に一言。
私たちに欠けているのは中近東の情報です。マスコミも欧米一辺倒。中近東の情勢も欧米のマスコミ情報を焼き直ししたものが多いです。私は、長年、News from the Middle East を読んでいます。
★ これは、東京外国語大学の教師・卒業生・現役学生が総動員で編集している超一流の資料集と言っていいでしょう。ペルシャ、トルコ、アラビア各国の主要新聞の記事を日本語に翻訳してネット上に公開しています。
この機会にご紹介致します。
~~~~~ 外部SNS コメント ~~~~~~
★ zensan (25) - 2008/04/12 12:22
けんこw/LOVE☆さん
たかが名称、と言って眺めている問題でも、同じコトが自国で起こると、それこそ目にカド立ててカンカンガクガク・・・よくありますね。ペルシャ湾と日本海。全く同じもんだいですね。私たちは、どう言っているのか?
この機会に私も、日本政府の見解を勉強しました(リンクしましたのでご覧ください)
She'sさん
本当にこの種の「呼称」問題は厄介ですね。長年、意識にも上らなかったコトが突然、アタマをもたげて抜き差しならぬ国際政治問題化する・・・ご指摘の“シナ”差別語問題もそうですね。
純粋な中国語本来の言葉の意味では「支那」は全く問題ありません。しかし、旧日本帝国主義が大陸侵攻に伴って侮蔑語にしてしまいました。日本人の悔悟の念として、少なくとも日本人はこの言葉を使うまい、それは正しい反省の態度と思います。
ただ日本の外務省は、「東シナ海」を正当とし、台湾・中国は特にこの点については外交問題にはしていません。
中国や台湾は、「東海」(とんはい)を使い、英語では、East China Sea として国際的に通用していると思います。
しかし、なんらかのきっかけで、中国や台湾政府が、この呼称を世界統一とし、日本に変更を求めることは十分、あるでしょうね。 呼称問題は本当に難しい、政治的に非常に敏感な爆発材だと思います。
★ zenzo 04/13 07:45 東京外国語大学は、間違いなく世界でもトップクラスの大学だと思います。一般向けに公開されている研究成果は、
1) 東外大言語モジュール―インターネット上の17言語言語教材
(言語運用を基盤とする言語情報学拠点)
2)日本語で読む中東メディア―ウェブとメルマガサービス
(中東イスラーム教育研究プロジェクト)
3)日本語で読める東南アジアのイスラーム関連記事
(「東南アジアのイスラーム」プロジェクト)
4)中東カフェ
(「中東とアジアをつなぐ新たな地域概念・共生関係の模索」プロジェクト)
などです。
詳しくは、こちらをご覧ください。
★ しみじみと、今、それを思うのは、中東地域・イランとアラビア半島に囲まれた海は《アラビア湾かペルシャ湾か》と熾烈な言論戦が闘わされている問題です。もともとこの論争は歴史が長く、これが持ち上がるたびに、イランとアラブ両方の民族意識が高揚し、政治状況を悪化させてきました。
★ ちょうど1年前の4月末にフランスのルーブル美術館がイランの歴史的文化財の説明書きの一部に「ペルシャ湾」ではなく「アラビア湾」の名称が記載されており、イラン文化遺産庁長官がルーブル美術館長に訂正要請の書簡を送り、フランス政府と協議の上、訂正されたこともありました。
★ 今回の火付け役は、どうやらネット大手のGoogleのようです。衛星写真ソフト「Google Earth」で、この海を「アラビア湾」と名付けたことに端を発します。最初はネット上で、イラン人が「けしからん」と声をあげ、それがネット上で大論議を呼び世間の注目を集めるようになったようです。
★ 今月に入って、アラブ諸国のマスコミが「当然、アラビア湾」と書き立て、とうとうイラン外務省のアセフィ報道官が内外マスコミに「アラブ側のいうような”アラビア湾”ではなく、”ペルシャ湾”と“正式名”で呼ぶよう訴えこれでさらに騒ぎが一層、拡大しています。
★ ネット上の【反グーグル・キャンペーン】もすさまじいものがあります。
「国際的なメディアに」(To International Media)向けられたネット文書が私の所にも送られてきました。”Immediate and unconditonal deletion of "Arabian Gulf" from Google Earth"(グーグル・アースは、直ちに、無条件で”アラビア湾”を削除せよ)
★ そこには、「そもそもペルシャとはなにか?」に始まり、【ペルシャ湾】名称の正当性を展開しています。そして賛同電子署名がワンサとあります。その数、今、現在、157958 署名。多くの署名に「ペルシャ湾だ、くたばれグーグル」などとかなり過激なコメントも書き添えられています。その勢いはすさまじいです。
★ 最初、この記事を書いてチェックした時(11:57)には157958 署名でしたが、今(13日午前00:00)念のために再チェックしてみましたら、何と、なんと・・・225036署名・・・わずか半日、約12時間で67.078署名も増えています。6万7千人! ウーン、思わず唸ります。
★ 遠い日本から眺めれば、中東の内陸に深く食い込んだ湾岸の名称が「ペルシャ湾」であろうと「アラビア湾」であろうとどうでもいい話にみえますが、この湾岸に関係のある諸国にとっては、その名称が実に重要な問題なのですね。
★ それが何時だったか? 手元資料に日時がないのですが、この湾岸の名称を巡って、イランのアハマディネジャド大統領とカタールのシェイク・ハマド・ビン・ハリファ・アル・サニ首長が大激論を展開したことがあります。
★ シェイク・ハマド首長がイランを訪問したとき、
「イランのサッカーチームがワールドカップで全ての”アラブ・ペルシャ湾岸”諸国の誇りとなるだろう」
と賛辞を述べました。
★ ところが、イランのアハマディネジャド大統領はこの発言を見過ごさず、
「どこの国でも学校では『ペルシャ湾』と習ったはずだ」
と突っ込み、シェイク・ハマド首長が
「いずれにしても、湾はあらゆる湾岸諸国に属する」
と、サラリとかわした”美談”が世界の注目を集めました。
もろにぶつかっていたら意地の突っ張りあい。どうなっていたことやら・・・
★ シェイク・ハマド首長発言が、「GCC」を意識しているのは明らかです。「GCC」と言うのこの地域の政治・経済・社会・・・など関係国の利害を調整するために設けられた「湾岸協力会議」(Gulf Cooperation Council)のことで、UAE、バハレーン、サウジアラビア、オマーン、カタール、クウェートの6カ国によって25年前に設立されました.。
西欧諸国のマスコミがシエイク・ハマド発言を《賢明なる発言》と絶賛したのもこの背景を意識してのことでした。
★ こう書きながら、私のアタマの中で我が国と韓国の「日本海」呼称問題が去来します。ユーラシア大陸と日本列島の間にある「日本海」 これが今、韓国との間で重要な外交問題になっています。
韓国は
《「日本海」という名称は誤っており、本来の「東海」(East Sea Donghae、トンヘ) に戻すべき》
と強く主張し、お互いに譲らず、にらみ合っています。
★ この微妙な問題は、1992年の国連地名標準化会議で韓国側から持ち出され、もう10数年間、激烈な議論が闘わされています。たかが名称、されど名称・・・こうした名称問題は、下手をすると、偏狭な民族意識を掻き立て、近隣民族間の要らざる憎悪感を増幅させるおそれがあります。
★ 昭和ヒトケタ族、今、喜寿を迎える年代の者は、それに踊らされた苦い経験を持っています。現人神を天皇に戴く「陽出ずる神国日本」 西欧諸国の植民地で圧政に苦しむアジア同胞を解放し、「八紘一宇」を建設。つまり、アジアは一つ、天皇陛下のご威光の元に一家の中の兄弟姉妹になりましょう???? そのために我らは、正義の聖戦を始める・・・
「抑圧されたアジア解放のために」 大陸に侵攻し、南太平洋に繰り出しました アホなことするから私はヒロシマ原爆に遭いました。多くの友を失いました。
★ 幻のような敵を作って解放軍を繰り出す。何か、今のアメリカが似たようなことをやっていますね。ありもしない「生物化学兵器保有」を理由にイラクに侵攻、国家を破壊しました。戦争大好きのこの大統領は、自分の気に染まない国々を「悪の枢軸・ならず者国家」と決めつけ抑圧された民衆解放解放を唱えます。歴史は繰り返す見本を見るような感じがしますね。
★ とにかく・・・・民族意識を掻き立てる動きは、国内がまとまらず国民の不安が高まった時、国民の目を外に向け、一致団結、国難と闘おう、と、言った為政者の意図が働くことが多いものです。そうした目を持って冷静に対処した方がいいでしょう。痛い思いをした昭和ヒトケタの感想です。
★ ところで、最後に一言。
私たちに欠けているのは中近東の情報です。マスコミも欧米一辺倒。中近東の情勢も欧米のマスコミ情報を焼き直ししたものが多いです。私は、長年、News from the Middle East を読んでいます。
★ これは、東京外国語大学の教師・卒業生・現役学生が総動員で編集している超一流の資料集と言っていいでしょう。ペルシャ、トルコ、アラビア各国の主要新聞の記事を日本語に翻訳してネット上に公開しています。
この機会にご紹介致します。
~~~~~ 外部SNS コメント ~~~~~~
◎ けんこw/LOVE☆ (110) - 2008/04/12 12:03
ペルシャ湾かアラビア湾かという問題は、日本でも日本海か否かという問題にもつながりますね。遠い国であればあるほど、なかなかピンとこないものですが
身近な問題となると、その問題の大きさに愕然としますね。
中近東諸国の問題も早く解決してほしいですね。
★ zensan (25) - 2008/04/12 12:22
けんこw/LOVE☆さん
たかが名称、と言って眺めている問題でも、同じコトが自国で起こると、それこそ目にカド立ててカンカンガクガク・・・よくありますね。ペルシャ湾と日本海。全く同じもんだいですね。私たちは、どう言っているのか?
この機会に私も、日本政府の見解を勉強しました(リンクしましたのでご覧ください)
★ zensan (25) - 2008/04/12 13:31
◎ She's (92) - 2008/04/12 12:54
たいへん興味深い記事をありがとうございました。アラビア海とペルシャ湾の認識でした。
日本海は英語表記が‘Sea of Japan’なのがいかにも日本のもののようで違和感を感じます。 話がそれてしまいますが、Chinaを‘シナ’と発音し、南シナ海、東シナ海と呼ぶのもいかがなものなのかしらと感じています。
She'sさん
本当にこの種の「呼称」問題は厄介ですね。長年、意識にも上らなかったコトが突然、アタマをもたげて抜き差しならぬ国際政治問題化する・・・ご指摘の“シナ”差別語問題もそうですね。
純粋な中国語本来の言葉の意味では「支那」は全く問題ありません。しかし、旧日本帝国主義が大陸侵攻に伴って侮蔑語にしてしまいました。日本人の悔悟の念として、少なくとも日本人はこの言葉を使うまい、それは正しい反省の態度と思います。
ただ日本の外務省は、「東シナ海」を正当とし、台湾・中国は特にこの点については外交問題にはしていません。
中国や台湾は、「東海」(とんはい)を使い、英語では、East China Sea として国際的に通用していると思います。
しかし、なんらかのきっかけで、中国や台湾政府が、この呼称を世界統一とし、日本に変更を求めることは十分、あるでしょうね。 呼称問題は本当に難しい、政治的に非常に敏感な爆発材だと思います。
◎ pome-love 04/13 02:02
久々に、中東の話題に・・・何よりも、News from the Middle East に出あったことは
大きな収穫でした。歴史の鍵は中東にといつも思っていますので・・・
★ zenzo 04/13 07:45 東京外国語大学は、間違いなく世界でもトップクラスの大学だと思います。一般向けに公開されている研究成果は、
1) 東外大言語モジュール―インターネット上の17言語言語教材
(言語運用を基盤とする言語情報学拠点)
2)日本語で読む中東メディア―ウェブとメルマガサービス
(中東イスラーム教育研究プロジェクト)
3)日本語で読める東南アジアのイスラーム関連記事
(「東南アジアのイスラーム」プロジェクト)
4)中東カフェ
(「中東とアジアをつなぐ新たな地域概念・共生関係の模索」プロジェクト)
などです。
詳しくは、こちらをご覧ください。
by zenmz
| 2008-04-12 11:57
| فارسى ペルシャ語